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朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』は、アイドルの運営に関わる男や、心を休めたい大学生など、異なる立場の3人を描く小説です。誰かを応援して元気になる気持ちが、商売や集団の動きと結びついていきます。人が何かに夢中になる理由を、その人の暮らしから読みたい人には、岩崎了さんと大森ゆきさんが読むオーディブル版がおすすめです。
この記事の目次
イン・ザ・メガチャーチはどんな物語?

契約社員として働く35歳の隅川絢子には、日々楽しみにしている活動があります。俳優の藤見倫太郎を応援することです。SNSで応援を続ける中、俳優に関する予想外のニュースが届きます。
別の暮らしの中で、男性アイドルを知るのが19歳の大学生、武藤澄香です。きっかけはアルバイト仲間の家。内向的で心労を抱える澄香は、そのアイドルを考えることで日常の悩みが和らいでいきます。
澄香の父、久保田慶彦は47歳のレコード会社員です。離婚して、元妻とも娘とも離れて暮らしています。かつての同僚から頼まれたのは、まだデビューしていないアイドルグループの運営への協力でした。澄香が応援する側に近づく一方で、慶彦は運営の側からアイドルに関わっていくことになります。
物語はこの3人の視点を行き来します。応援が日常のどんな部分を支え、その熱を仕事にする側には何があるのかを、別々の暮らしから見ていく小説です。
好きな人を応援して、仲間と楽しく過ごす。そんな明るさを期待する人には、重く感じる部分もある作品です。応援が救いになることも、何かに頼りすぎてしまうことも、人物たちの側から描かれます。

「『メガチャーチ』、人を夢中にさせる側の話が気になる」

「この前、好きな歌手の動画を12本送ってきた人が言うと、ちょっと怖い」

「あれは厳選した12本だよ」

「受け取るほうには、厳選されても12本あるの」

「最初の3本で歌が好きになって、次の3本で意外な一面が……」

「私の好きになる順番まで決まってるんだ」

「そんなつもりじゃ。一緒に好きになれたら、話せることが増えるかなって」

「それなら、1本目の感想を言ってもいい?」

「もう見てくれたんだ。じゃあ次は……」

「今、感想を言う場所を探してる」

「ごめん。動画じゃなくて、俺を一時停止して」

「停止ボタン、どこにつけようか」
応援する気持ちが、商売や集団の熱へ変わっていく
父が助けたい将来と、娘の迷い
慶彦が運営への協力を引き受ける理由には、娘の留学資金があります。一方、澄香は大学で留学生との交流サークルに所属しながら、自分の海外志向に迷っています。娘の将来を支えようと仕事を引き受ける父と、その将来に迷う娘。二人が別々の場所でアイドルに関わるため、同じ親子でも何を求めているのかが違って見えてきます。
応援する側と運営する側の両方から、推し活を描くところが面白かったという感想があります。
応援する相手と、一緒に応援する仲間
絢子にとって、藤見倫太郎を応援することは、俳優本人だけで完結する楽しみではありません。会社の先輩が同じ相手を推す仲間でもあり、ファン同士の活動が日々の楽しみになっています。仕事で接する人との関係と、好きなものを通じたつながりが重なる人物です。
異なる立場の3人の場面を行き来し、それぞれの事情や人物の関わりを見比べられる構成を楽しんだという感想もあります。
人が夢中になる仕組みを知りたい人には、ファンと運営の両方から読む面白さがあります。ただ、好きな人物を応援したり、読み終えて気持ちよく過ごしたりすることを求めるなら、期待とは違う読み心地になりそうです。
Audible版の岩崎了さん・大森ゆきさんの朗読は、どんなふうに聞こえる?
オーディブル版は、岩崎了さんと大森ゆきさんの2人が朗読を担当しています。
人物に合わせた声の違いが、誰の場面なのかをつかむ助けになるという感想があります。
岩崎了(いわさきりょう)さんは、アニメ『僕のヒーローアカデミア』のスピナー役などを演じる声優です。大森ゆきさんは『アリスと蔵六』で羽鳥の母を演じ、オーディオブックの朗読でも活動する声優です。
声や語り方が気になる人には、最初にプレビューを聴くのがおすすめです。

「夢中になってる人の話って、声で聞くと、こっちまで気になってくることあるよね」

「動画を12本選んでるときの俺も、かなり楽しそうだったと思う」

「どれくらいかかったの?」

「3時間」

「私に送るために?」

「選んでる途中で、何回も見ちゃって。歌も見せたいし、話してるところも見せたいし」

「ほとんど、自分が楽しむ時間になってる」

「だから12本に減らすのが大変だった」

「私は12本に増えてると思ってた」

「同じ本数なのにね。でも、どうして送ったかは分かった?」

「うん。楽しそうなのは分かった。でも、12本は多いよ」
Audible版イン・ザ・メガチャーチ
オーディブル版の再生時間は15時間43分です。紙で手に取りたい方は、『イン・ザ・メガチャーチ』の単行本もあります。

「ミナがこの本を聴いたら、今度は『どうだった?』って聞こう」

「『よかったでしょ?』じゃなくて?」

「……前は、そう聞いてたね」

「それだと、違うことを言ったら悪いかなって思う」

「じゃあ、あの1本目の動画。どこが好きだった?」

「歌い終わって、急に緊張がほどけたところ」

「俺は2番の振り付けを見てほしかったんだけど、そこもいいね」

「12本目の話に行く前に、1本目だけでも話せること、あったね」
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