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【追悼】村上龍さんの作品をオーディブルで聴く|配信作品と編集部員が選んだ紹介したい本

村上龍さんが2026年10月17日に亡くなられました。作品を通して、村上さんをしのびたいと思います。

この記事の目次
  1. 『五分後の世界』と続編『ヒュウガ・ウイルス』、どちらも配信中
  2. エッセイでも聴ける『無趣味のすすめ 拡大決定版』
  3. 『ユーチューバー』では、70歳の作家が自分の過去を語る
  4. 『コインロッカー・ベイビーズ』
  5. 国や社会が揺れる小説と、若者の日々を描く小説
  6. 『13歳のハローワーク』は、好きなものから仕事を探す本
  7. まず聴く一冊を決めるなら

編集部員Cは村上龍さんの作品をほとんど網羅していて、以前から編集部のみんなに勧めていました。『限りなく透明に近いブルー』のイメージが強く、性や暴力の描写は苦手だと感じる方もいるかもしれません。でも、村上さんには仕事について語るエッセイや、子どもと職業を考える本もあります。

まずオーディブルで紹介したいのは、『五分後の世界』と、その続編『ヒュウガ・ウイルス』。一作目は桐谷健太さん、続編は桜井ユキさんの朗読で、どちらも配信中です。

『五分後の世界』と続編『ヒュウガ・ウイルス』、どちらも配信中

作品 配信状況 再生時間
五分後の世界 配信中/桐谷健太朗読 9時間39分
ヒュウガ・ウイルス:五分後の世界2 配信中/桜井ユキ朗読 7時間58分

二冊の舞台は、私たちの暮らす世界から五分ずれた日本です。一作目では突然そこへ迷い込んだ男を、続編では感染症の取材に向かうジャーナリストを追います。

『五分後の世界』――ジョギングの先が、戦場につながっている

主人公の小田桐は、ジョギングをしていたはずでした。ところが気づくと、硝煙の漂う泥道を行進しています。そこは、元の世界から五分ずれた日本。人口は約26万人にまで減り、人々は地下で暮らしながら戦いを続けています。

この日本では、日本国軍が駐留する連合国軍を相手にゲリラ戦を続けています。小田桐にとっては、ジョギングをしていた日常から、戦争の続く国へ突然連れ出されたことになります。たった五分の違いで、なぜこれほど違う日本になったのか。日常から異なる世界へ迷い込み、その成り立ちを主人公と一緒に知っていく小説が好きな人に勧めたい一冊です。

地下にも駅があり、小田桐は同行する将校とモノレールに乗ります。途中で乗り込んできたのは、国民学校中等部の生徒たち。その一人が小田桐に質問しようとすると、将校が、二人は司令部へ向かう途中で、小田桐は前線から戻ったばかりだと説明します。司令部や前線の話を聞いた生徒たちは目を輝かせます。男子も女子も、スポーツ選手を思わせるほど筋肉の発達した体つきです。兵士だけでなく、学校へ通う子どもたちにとっても、戦争が日々の暮らしから切り離せない国なのです。

音声版を朗読する桐谷健太さんは、ドラマ『ROOKIES(ルーキーズ)』で平塚平を演じた俳優です。ドラマで桐谷さんを知り、小説を読む声も聴いてみたい方は、まずプレビューで声を確かめるのがおすすめです。

五分後の世界の表紙
五分後の世界村上龍/表紙:Amazon

『ヒュウガ・ウイルス』――戦争の続く日本に、感染症が広がる

続編では、アメリカ人ジャーナリストのキャサリン・コウリーが登場します。日本国軍から求められたのは、細菌戦を専門とする部隊への同行。九州東南部の歓楽都市「ビッグ・バン」で、命を奪う感染症が発生しているというのです。

キャサリンが向かう先で広がっているのは、筋肉がけいれんしたあと、血を吐いて命を落とす感染症です。銃を持って戦うだけでは対処できない事態に、その部隊が関わります。一作目で小田桐が遭遇した銃撃戦から、今度はウイルスが人を襲う現場へ。兵士たちと行動を共にする取材者を追いながら、戦争の続く日本で起きたもう一つの危機を読む続編です。

朗読を担当する桜井ユキさんは、NHKドラマ『だから私は推しました』で主演を務めた俳優です。

ヒュウガ・ウイルス:五分後の世界2の表紙
ヒュウガ・ウイルス:五分後の世界2村上龍/表紙:Amazon

エッセイでも聴ける『無趣味のすすめ 拡大決定版』

兼政郁人さんが朗読する、3時間22分のエッセイ集です。表題のエッセイで村上龍さんが趣味に見いだせないとするのは、心が揺さぶられるほどの失望や歓喜、興奮です。大きな負担や失敗の危険を引き受ける仕事にこそ、深い充実があると説きます。仕事を離れた時間に楽しみを持つより、仕事そのものへ打ち込むことを勧める、強い主張から始まる本です。

「少数派という原則」では、ベンチャーが多数派へ流れることを戒めます。「『好き』という言葉の罠」では、説明しやすい好みと、何かを生み出す力との間に疑問を投げかけます。働く理由や創作の動機について、自分の考えと照らし合わせながら読めるエッセイです。

Audibleで聴ける『拡大決定版』には、単行本に入っていなかった文章も含めて61篇が収められています。目次には「仕事と人生のパートナーシップ」「夢と目標」「集中と緊張とリラックス」といった題も並びます。働く理由に始まり、一緒に仕事をする相手や目標、集中する時間のことまで、毎日の仕事に関わる話題が続きます。

村上さんは、失敗や危機を避けるための手軽なコツよりも、欲しいもののために考え抜き、難しい仕事を引き受けることを重く見ています。「グローバリズムは思想ではない」では、グローバリズムを特定の思想ではなく、目には見えない大きな社会の流れとして捉えています。仕事の成功法則を覚えたいというより、失敗を恐れて踏み出せないときに、あえて厳しい言葉を読んでみたい人に勧めたい一冊です。

無趣味のすすめ 拡大決定版の表紙
無趣味のすすめ 拡大決定版村上龍/表紙:Amazon

『ユーチューバー』では、70歳の作家が自分の過去を語る

『ユーチューバー』の主人公は、70歳の作家・矢﨑健介。若い頃に華々しくデビューした人気作家です。コロナ禍の東京の高級ホテルで、矢﨑と中年の恋人、そして恋愛に縁のない40代の男が出会います。男は、自分が手がけるYouTube番組に出演してほしいと矢﨑に頼みます。

引き受けた矢﨑が話し始めるのは、若い頃に出会った女性たちのこと。たとえば、吉祥寺のロック喫茶で知り合ったスミコとの出会いが語られます。その話を番組にしようとしている40代の男との組み合わせにも、この小説の面白さがあります。

本には表題作のほか、「ホテル・サブスクリプション」「ディスカバリー」「ユーチューブ」の計4編を収録しています。

音声版は古舘寛治さんの朗読で、3時間46分。プレミアムプランの聴き放題対象です。

ユーチューバーの表紙
ユーチューバー村上龍/表紙:Amazon

『コインロッカー・ベイビーズ』

ダチュラ

『コインロッカー・ベイビーズ』の中心にいるのは、キクとハシ。二人とも、生まれて間もなく駅のコインロッカーに捨てられ、生き延びた子どもです。養父母に引き取られ、九州の廃鉱の島で育ちます。やがて東京へ向かい、ハシは歌の世界へ、キクは暴力の方へと進んでいきます。

ハシの歌声を見いだすのは、音楽プロデューサーです。歌手として人々に知られていくハシに対し、キクは強い暴力衝動を抱え、やがて「ダチュラ」という薬物を求めるようになります。作中では、人間の破壊衝動を解き放つ恐ろしい薬物として描かれています。二人がどんな大人になるのかを追っていたはずが、東京という街まで巻き込む物語になっていく。その広がりと、キクの危うさが、この長編を先へと引っ張っていきます。

新装版 コインロッカー・ベイビーズの表紙
新装版 コインロッカー・ベイビーズ村上龍/表紙:Amazon

国や社会が揺れる小説と、若者の日々を描く小説

『半島を出よ』――占拠された福岡で、若者たちが動き出す

舞台は、作中の2011年春。プロ野球の開幕戦が行われている福岡ドームを、北朝鮮から来た9人の武装コマンドが占拠します。彼らは反乱軍を名乗ります。ドーム占拠の2時間後には約500人の特殊部隊も襲来し、福岡の中心部を制圧します。日本政府は対応を迫られます。

この小説では、章ごとに中心となる人物が替わります。占拠に対応する日本側の人々を描いたあとに、作戦を実行する北朝鮮の将校の章へ移る、といった構成です。将校たちは単に外から現れた敵として描かれるだけでなく、何を考え、どう判断して行動するのかまで書かれています。福岡で起きる一つの事件を、日本側と北朝鮮側の両方から追えるのです。

そして福岡には、詩人のイシハラと暮らす若者たちがいます。イシハラは、社会になじめない十代後半の若者たちが集まる、この集団の中心人物です。日本政府が混乱するなかで、彼らも占拠した部隊に立ち向かおうと動き始めます。なぜ、社会になじめなかった若者たちが武装部隊に立ち向かうのか。そこで、国同士の軍事衝突の話に、彼らが社会でどう生きてきたかという話が重なります。

音声版の上巻・下巻は、2026年11月27日に配信予定です。

『愛と幻想のファシズム』――トウジとゼロから、政治結社へ

ハンターのトウジと、相棒となるゼロ。二人を中心に生まれた政治結社「狩猟社」が、世界恐慌の中で勢力を広げていく小説です。狩猟社会を理想とするトウジは、弱い者を排除する考えを持っています。

狩猟社が力を示す場面の一つが、研究所の労働争議です。施設の護衛を請け負い、武力によって争議を鎮圧する。その実力が知られるにつれて、組織は大きくなっていきます。トウジとゼロの関係から始まった話が、社会全体を動かす組織の話へと膨らんでいきます。

狩猟社に集まってくるのは、武力を振るう人々ばかりではありません。学者や官僚も加わり、情報科学に詳しい飛駒勇二も組織の一員になります。暴力で押し切るだけでなく、専門知識や社会の中で得た力まで取り込みながら、結社は社会へ働きかける力を得ていきます。弱い者を排除するというトウジの考えに、そうした人々の能力が結びついていくところが恐ろしい小説です。

『新世紀エヴァンゲリオン』にも影響を与えた小説です。鈴原トウジと相田ケンスケの名前、洞木ヒカリの姓は、この作品から取られています。庵野秀明監督は、とりわけ「ゼロ」という人物に惹かれたと語っています。エヴァを知っている人なら、聞き覚えのある名前に出会う楽しみもあるでしょう。あの名前が、村上龍さんの小説ではどんな人物として登場するのか。それをきっかけに読んでみるのもおすすめです。

愛と幻想のファシズム(上)の表紙
愛と幻想のファシズム(上)村上龍/表紙:Amazon

本の下巻はこちら

『限りなく透明に近いブルー』――リュウの耳に入る音から始まる

『限りなく透明に近いブルー』は、リュウが飛行機の音と虫の羽音を聞き間違えるところから始まります。舞台は米軍基地のある東京・福生。リュウの語りを通して、薬物や性に囲まれた若者たちの生活が描かれます。

語りの中心にいるリュウは、自分の見たものや聞いたものを通して、その場の様子を生々しく伝えていきます。出来事を遠くから解説するより先に、その場にいる一人の耳を通して物語が始まるのです。1976年に群像新人文学賞と芥川賞を受けたデビュー作。性や薬物の描写だけでなく、その生々しい語りを読んでみたい人にも勧めたい一冊です。

新装版 限りなく透明に近いブルーの表紙
新装版 限りなく透明に近いブルー村上龍/表紙:Amazon

『13歳のハローワーク』は、好きなものから仕事を探す本

村上龍さんの本には、子どもに仕事を伝える職業図鑑もあります。はまのゆかさんが絵を担当した『13歳のハローワーク』です。花や動物、音楽、スポーツ、工作、料理など、好きなものから514種類の職業を紹介しています。

「将来、何になりたい?」と聞かれても、すぐには答えられない子がいるでしょう。でも、動物と遊ぶのが好き、料理を作るのが楽しい、という話ならできるかもしれません。この本は、そうした身近な興味から、まだ知らない仕事へと話を広げてくれます。

最初に登場する職業は、プラントハンター。遠くの土地へ出かけ、珍しい植物を探して持ち帰っていた人々です。その紹介では、希少なものを扱う利益と、他の人がしていない仕事をするリスクにも触れます。植物が好き、という気持ちから始めて、その仕事がどう成り立つかまで話を進めています。

好きなものがまだ見つからない子のための章も、独立して設けられています。将来の夢を一つ決めてから開く必要はありません。職業名を知りながら、自分が何に興味を持つのかを探す読み方もできます。

自然や科学、アートや表現、スポーツや遊び、旅や外国、生活や社会と、興味をたどれる分野も幅広く用意されています。子どもと一緒にページを開いて、「これも仕事になるんだね」と話してみるのも楽しそうです。好きなものの話から仕事へつなげられるので、進路の話を切り出すのが難しいと感じている親にも勧めたい一冊です。

13歳のハローワークの表紙
13歳のハローワーク村上龍/表紙:Amazon

まず聴く一冊を決めるなら

小説から入るなら、まず『五分後の世界』を。迷い込んだ小田桐と一緒にこの日本を知ってから、アメリカ人ジャーナリストのキャサリンが部隊に同行して感染症の現場へ向かう『ヒュウガ・ウイルス』へ進むのがおすすめです。仕事についての文章を読みたいときには、『無趣味のすすめ 拡大決定版』も聴けます。

書籍へ広げるなら、二人の少年を追う『コインロッカー・ベイビーズ』、軍や政治集団を描く『半島を出よ』『愛と幻想のファシズム』もあります。気になった人物や場面のある一冊から、手に取ってみてください。