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施薬院で働く若い官人・蜂田名代は、仕事に嫌気が差しています。そこへ不思議な病が相次ぎ、都の暮らしが揺らぎ始めます。澤田瞳子さんの『火定』(かじょう)は、天平の平城京を舞台にした歴史小説です。危機に置かれた人の気持ちや行動を追いたい人には、辻井健吾さんが朗読するオーディブル版がおすすめです。
この記事の目次
火定はどんな物語?

舞台は天平の平城京。施薬院は、藤原房前らが設けた、病人を治療する場所です。名代はここで官人として働いていますが、仕事に嫌気が差し、早く離れたいと思っています。
施薬院では、高い熱が数日続いてから急に下がる、不思議な病が相次ぎます。医師の綱手はその様子を不審に思いますが、名代はまだ気に留めません。
院の外では、名代は同僚に連れられて、新羅から届いた品を扱う市へ出かけます。そこで会うのが、房前に仕える家令・猪名部諸男です。勤め先を設けた人に仕える相手なのに、諸男は施薬院を悪く言い、医師への憎しみまで隠しません。名代も仕事には不満があるものの、その言葉には反感を持ちます。
ところが諸男は、高熱で倒れた使節の男を世話するために連れ帰ります。医師を悪く言う人が、病人を放っておかずに面倒を見る。その行動に、名代は興味も抱きます。嫌な感じのする相手だと受け止めたあとで、その人の別の一面が気になる。名代と一緒に、諸男がどんな人なのかを知りたくなる出会いです。

「名代、仕事に嫌気が差してるところから始まるんだね」

「仕事が嫌なところへ、病気が広がるんだよね。そこでどうするのかが気になる」

「俺、この前、友人の引越しを手伝うって言ったときは、ずいぶん立派な返事をした」

「どんな?」

「『困ったときはお互いさま。何でも頼んでくれ』って」

「前に机を運んでもらった人?」

「そう。あのお礼もしたかったんだ」

「じゃあ、今度はユウが運ぶ番だ」

「日程も決まった。今度の日曜に手伝ってくる」

「それなら、私の本棚もお願いしようかな」

「引越しの話、もう広まった?」

「『何でも頼んでくれ』って、今、目の前で聞いたよ」
立場の違う人々の思いが重なる面白さ
同じ病を前にしても、医師の綱手は熱の出方を怪しみ、名代はまだ気に留めません。施薬院を悪く言う諸男は、倒れた使節を連れ帰って世話をします。立場の違う人たちが、それぞれの理由で病と関わっていく物語です。
資料の少ない施薬院を、どう描いたのか
本作では、残る資料の少ない施薬院で働く人々の姿を、作者の想像を交えて描いています。
作者が最初に設定の決まった人物として挙げているのは、施薬院で働く町医者の綱手です。歴史上の大きな出来事を出発点にして、一人ひとりの人間を描く形になったと話しています。当時の制度を説明するだけでは埋まらない部分を、人の仕事や気持ちとして描いているのが、この小説のつくりです。
展開への驚きより、人物の描写を楽しんだ人も
展開には意外性が乏しく、感動もしなかったものの、人物を描く文章は面白く感じたという人もいます。
Audible版の辻井健吾さんの朗読は、どんなふうに聞こえる?
辻井健吾さんは、アニメ『僕のヒーローアカデミア』の多部空満役を演じる声優です。
物語と朗読は好きでも、亡くなっていく人々を描く場面はつらかったという人がいます。
亡くなっていく人々を描く場面がつらい人には、重い作品です。
辻井さんの声や読み方が気になる人には、最初に『火定』のプレビューを聴くのがおすすめです。

「仕事が嫌になってる名代が、どう返事をする人なのかも気になるね」

「立派なことを言うのか、嫌だって言うのか。声で聞いたら、どう感じるんだろう」

「どんな言葉でも、そのあとどう動くかは見たいな」

「さっきの俺の返事も、そこまで見られてる?」

「本棚の話なら、予定を決めたいと思ってる」

「ああ、うん。持てる範囲でなら、もちろん」

「急に声が小さくなったね」

「本棚って、どれくらい大きいのかなと思って」

「下見に来る?」

「行く。手伝いたいけど、前の机より大きかったら、俺一人じゃ持てないかもしれないし」

「それを最初から言ってくれれば、頼みやすいのに」

「分かった。俺の『何でも』には、下見が必要です」
『火定』の再生時間と文庫版
オーディブルの日本語版は、辻井健吾さんの朗読で12時間8分です。2026年10月現在、プレミアムプランの聴き放題対象になっています。
紙で手に取りたい方には、文庫版の『火定』がおすすめです。文庫版には、安部龍太郎さんの解説が付いています。
Audibleを初めて使う人は、Audibleの登録ページから始められます。無料体験の条件や登録の流れは、Audibleの無料体験で紹介しています。
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